以下の記事:
クラシックピアノは天動説、ジャズピアノは地動説。 - ピアノ方丈記
の続き。
前回、
ピアノに限らず「クラシック音楽は天動説」「ジャズなど20世紀以降の音楽は地動説」と私が思う理由は:
①「クラシックは固定ド(=絶対音感)の宇宙」vs「ジャズなど20世紀以降の音楽は移動ド(=相対音感)の宇宙」だから。
について書いた。
今回は、
②「クラシックは I→IV→V→I の宇宙」vs「ジャズなど20世紀以降の音楽は II→V の宇宙」だから。
と思ったからです。
クラシックピアノを習ったことがある人に「カデンツを弾いてください」とお願いしてみると、みな判で押したように、
右手:ドミソの和音→ドファラの和音→ドミソの和音→シレソの和音→ドミソの和音
左手: ド → ファ → ドまたはソ → ソ → ド
と、ケンバンを叩くだろう。
更に親切な人は、右手を
右手:ミソド → ファラド → ミソド → レソシ → ミソド
や、
右手:ソドミ → ラドファ → ソドミ → ソシレ → ソドミ
や、
「レソシ」や「ソシレ」を「レファソシ」や「ソシレファ」なんて弾いてくれる人もいるかもしれない。
これら一連の和音進行の基盤が、
I→IV→V→I
で、クラシックピアノのお稽古では「カデンツ」と習う。私が子供の頃はそうだった。
ところで、これが本当に「カデンツ」というものなのか、半世紀後の今の私には、よくわからない。
というのは、「カデンツ」というのは「和音進行の終わり方」のことで、日本語クラシックでは「終止」と呼ばれるからだ。だから、厳密には「V→I」の部分だけが「カデンツ」なのではないだろうか?と、私は思うからだ。
ピアノ協奏曲やヴァイオリン協奏曲の「カデンツァ」の部分は、ソリストが長い「カデンツァ」を弾くのだが、これがどうして「カデンツァ」と呼ばれるか、クラシック愛好家の皆さんはご存じでしょう?
私はクラシック愛好家じゃないけど、どこかの国の誰かが説明する動画を視てその理由がわかったよ。 この「カデンツァ」の部分は、協奏曲の最終局面である長~~~~~~い「カデンツ(終止)」部分の一部なのだ。 この長い長い長~~~い「カデンツ(終止)」は、実は、ソリストが「カデンツァ」を弾き始める直前、オーケストラが「ソドミ!」の和音を決断的に奏でてソリストに演奏のバトンを渡した瞬間から始まっている。 オーケストラは「ドミソ」でも「ミソド」でもなく、「ソドミ!」と奏でる。 つまり、コントラバスなどの低音楽器が「ソ」の音を出しているはずだ。
どうして?「ドミソ」でも「ミソド」でもなくて、「ソドミ!」なの?
それは、
「「ソドミ」というI度(ドミソ)のセカンド・インヴァージョン(2nd inversion=第2転回形)は、不安定な性質を持った和音なのであーる!」と、クラシック音楽では考えられていて、
「「ソドミ」ときたら必ず「ソシレ」に行くべし!」と決められているからなのであーるよ。
つまり、上述のピアノのお稽古で「カデンツ」と呼ばれるものの最後の:
V→I
の「V」を、下記の[ ]内のように:
[ I(ソドミ) → V(ソシレ)]→ I(ドミソ)
にして演奏しているのだ。
[I(ソドミ) → V(ソシレ)]の部分を、引っ張れるだけ引っ張って、引き伸ばして弾いている部分なのだ。
そして、ソリストの「カデンツァ」のソロ演奏の最後はだいたい:
シドシドシドシドシドシドシ~~ラ~~シ~~ とV度の和音(ソシレ)になって、そのつぎにソリスト+オーケストラが一緒に
「ドっ!」と全員でI度(ドミソ)を鳴らして、カデンツ部分終了!つまり曲が終了!その後に最後まで続く部分はカデンツのオマケの部分なのだ。
これと同じパターンは、クラシックピアノを習った/習っている人ならやったことがあるにちがいない、ブルグミュラー25練習曲の1番「すなおな心」だっけ?にもバッチリみられる。 後半の、不穏な響きのハーフディミニッシュ⇒めっちゃくちゃ不穏なディミニッシュコードで「どうなるどうなる?」なハラハラドキドキ感が最高潮に達した:
右手: G (Eb D C) F# (Eb D C)
左手: [A] [AC]
コード: viø vi°
の後の:
右手: A G C D F E G A C B G A C B E D C
左手: [GCE] ←ソドミ! [GF] [GF] CEFG C
コード:Iの第二転回形 V7 I
の、雲がにわかに晴れて青空がパーッ!と広がったような響きのところが、まさに
[ I(ソドミ) → V(ソシレ)]→ I(ドミソ)
になっている。 そして、「すなおな心」の曲の本体は、これにて一件落着!以上終了!
そのあとに、何となく続く、iv⇒I⇒iv⇒I (= Fm⇒C⇒Fm⇒C)のくだりは、「編集後記」みたいな、オマケの部分で、IVがマイナーivになった「アーメン終止(plagal cadenceプレイガル・ケイデンス)」だ!って、知っている人は知っているよね。
(もっと広い目で「すなおな心」を眺めると、この曲は大きな I⇒V⇒Iのストーリーになっているね。曲の最初(I)からト長調(V)になり、左手が[ソシドレソシドレ⇒ソラシドレドミド]と動く中盤は、V→I(不安定なソドミ)で聴く人を「これからどうなるかな?」という不安定な気分にさせてから、ディミニッシュ系コードを入れ込んで聴く人をハラハラドキドキさせた後で、晴れて[ I(ソドミ) → V(ソシレ)] I(ドミソ)!で、これにて一件落着!&編集後記です。 という構造になっているね。)
※ちなみに、米語クラシックでは、ケイデンス(V→I)の「V」が[I(ソドミ) → V(ソシレ)]になった部分の、I度(ドミソ)が2回ひっくり返ったソドミのことを、「カデンシャル・シックス・フォー (cadential 6 4)」と呼ぶ。 そして、ここまで出てきた「カデンツ」「カデンツァ」「ケイデンス」は、ご想像のとおり、すべて同じ言葉だ(その大元の意味は英語版のウィキに書いてある。落語でいうところの「下げ」や「落ち」と同じ意味だ)。 2回ひっくりかえった形の和音(=2nd inversion=第2転回形)を英語で「シックス・フォー(6 4)」と呼ぶのは、日本語クラシックで「臥薪嘗胆」じゃない、「焼肉定食」でもない、ああそうだ「通奏低音」と呼ばれるところのもの(英語でfigured bassフィギュアド・ベイス←英語では「バス」とは言わない)にまで遡る、ということも、いろいろな動画を視ているうちに知ったよ。 ←もちろん、フランス語やイタリア語では「バス」だろうけど、「ベースラインが...」と言った私の言葉にかぶせて訂正するように「バス!」と言ったクラシックピアノ人さんの了見の狭さには、ちょっとビックリしたよ。
※それから、今まで書いてきた日本語クラシックの「和音」は、英語では「chord(コード)」という。というか、それでは順序が逆だ! 西洋音楽の「chord(コード)」の意味を、明治時代に西洋音楽を日本に輸入した学者たちが日本語に翻訳したのが「和音」という言葉だ。 「chord(コード)」のもともとの意味は、「2つ以上の音を同時に鳴らした時の音」だ。 だから「ドミソ」じゃなくて「ドミ」でも、「シド」でも、同時に鳴らせば「和音」だ。 「シド」は「和音」じゃないだろうが!という声が聞こえてきそうだが、作曲家が「シド」を同時に鳴らすことで、その作曲家独自の音楽表現を狙ったのであれば、それは「和音」つまりchord(コード)だ。 実は、クラシック日本語の「和音」で連想されるような音は「コンソナント・コード(consonant chord)」だ。だから、本来は「協和音」と言わなければいけないのであーる! 「シドファ」みたいな和音は「ディソナント・コード(dissonant chord)」つまり「不協和音」という「和音」なのだ。
↑ ここで、気がついた人がいるかもしれないけど「consonant」「dissonant」の「son」は「音」という意味だ。ソニーのSONYもここからきている。おそらくパナソニックのPanasonicもそうだろうね?(じゃあ、PanasonicのPanは?って思った人は、自分でいろいろ調べてみると面白いかもしれない)。 音速を超えた「超音速」の語源はsupersonicという言葉だ。 スーパーマンsupermanは「超人」つまり人間の能力を超越した能力を持つ人のことだ。 協和音の「consonant」、不協和音の「dissonant」の con と dis の意味も、なんとなく想像できるよね。 英単語はこうやって覚えていくんだ。 外国語でも音楽でも、ただ「書かれたものを見て機械的に丸暗記」じゃ、脳内にぜんぜん定着しないんだよ。
日本語クラシックの「I度の和音」を、米国人の動画で「1 chord ワン・コード」と言っていたよ。
日本語で通常言われる「コード」とは、英語では lead sheet symbols とか chord symbols と呼ばれているものだ。
このように、私のような音楽シロートでも、高額なレッスン料金を払ったり音大に行ったりしなくても、こういう内容をタダで知ることができる世の中になったので、私にとっては本当に良い時代になったものだ(もっとも、パソコンやネット通信料金はかかるけどね)。
つづきは、以下に加筆(の予定):
20231120に加筆:
いま、Tonal Harmony という本のコード進行の章を確認しながら書いています。
この本に、「西洋音楽において最も強力なコード進行は、ソ→ドである」と書いてあります。
つまり、
西洋音楽のダイアトニック(7つの音の)音階である「ドレミファソラシ(ド)」のなかで、
ソ→ドへの進行が西洋音楽的に最も強力と考えられているのだ。
この いわゆる西洋音楽のコードの定番であり、「みたらし団子」と私が勝手に呼んでいる、「3度ごとに音を重ねた stacking (of) thirdsコードすなわちトライアドtraid=3和音」の形(楽譜に書いた時に「だんご三兄弟」みたいな「みたらし団子」みたいに見えるでしょ?)にして、ソ→ドをルートの音(トライアドコードのベイス音)にすると、西洋音楽の最も基本的なコード進行(chord progression)は:
I - V - I
ドミソ ソシレ ドミソ
だそうだ。 もっとも典型的な例は、お辞儀をするときの音:
右手: ミソド (レ)ファソシ ミソド
左手: ド ソ ド
だね。右手の「ドミソ」が「ミソド」になるなど転回している(inverted)けど、構成音は同じだね。「ファ」が紛れ込んでいるけど、今は気にしないで進んでいくよ。
さて、西洋音楽において最も強力なコード進行が「ソ→ド」と規定されていることが分かったところで、残った「ド レ ミ ファ ソ ラ シ (ド)」のうち、次に最も強力なコード進行を作る音はどれだろうか?
さあここで、「5度圏 the circle of 5ths」というコンセプトが出てくるのだ!
そもそも、「ソ→ド」は、ソから完全5度(perfect 5th)下がったドへ、または、反対方向に完全4度(perfect 4th)上がったドへ向かう進行だね。
ソから完5(P5)下がると、ソ↘ファ↘ミ↘レ↘ド。
ソから完4(P4)上がると、ソ↗ラ↗シ↗ド。
ということは、次に強力な進行は、最も強力にソに向かう進行。ということは、
ソから完5(P5)上から、レ↘ド↘シ↘ラ↘ソ。
ソから完4(P4)上がると、レ↗ミ↗ファ↗ソ。
つまり、「レ→ソ」の進行だ。これをルート音にしてコード(和音)を立ち上げると:
ii - V - I
レファラ ソシレ ドミソ になる。
さあここで早くも、ジャズやポップスで最も重要と言われる
「ツーファイヴ ii -V」と呼ばれるコード進行が出てきたよ!
あれ? 子どもの頃のピアノのお稽古で私が習った:
I - IV - I - V - I
は、まだ出てこないね。
ここまで来たら、勘の良い人はもうわかったと思うけど、
次に強力なコード進行は、レのP5上またはP4下の音である「ラ」から「レ」に行く進行だ。
つまり:
vi - ii - V - I
ラドミ レファラ ソシレ ドミソ
その次に強力なコード進行は、「ラ」のP5上またはP4下の「ミ」から「ラ」:
iii - vi - ii - V - I
ミソシ ラドミ レファラ ソシレ ドミソ
さて、ここで、
iii - vi - ii - V - I をよく見てみよう。これらのコードのルート音は:
ミ ラ レ ソ ド だね。
そして、ケンバンを見てみよう。
ハ長調で考えると、これらの5つの音は、
ケンバンの真ん中の白鍵3つ(=C4,D4,E4)の真ん中のD4を中心に、
E3 - A3 - D4 - G4 - C5
と並んでいることがわかる。 これらを並べ替えると、
C-D-E-G-Aになる。ハ長調の、
ドレミソラ。
ペンタトニック(5つの音の)スケールになる! じゃあ、
残りのファとシは?
E3 A3 D4 G4 C5 の両端からそれぞれP4離れたところに:
B2 E3 A3 D4 G4 C5 F5
シ ミ ラ レ ソ ド ファ
あった! これらを並べ替えると、
C-D-E-F-G-A-B ハ長調で:
ドレミファソラシ。つまり、
ハ長調のダイアトニック(7つの音の)スケールになるね!
で、このファとシをそれぞれルートにしたIVとviiのコードを加えると、
西洋クラシック音楽のコード進行は、こうなる!:
まず、「シ vii°」を加えると:
iii - vi - ii - [Vまたはvii°] - I
ミソシ ラドミ レファラ [ソシレ または シレファ] ドミソ
最後に「ファ IV」を加えると:
iii - vi - [IV→ii] - [Vまたはvii°] - I
ミソシ ラドミ [ファラド→レファラ] [ソシレ または シレファ] ドミソ
どうして IVがiiと、vii°がVと、同じくくりにされているか、
想像できる人は、できるよね。
(IV→I っていうコード進行もあるから、興味のある人は、音楽理論書で確認してね。それから、「私が長年大切に本棚に置いている音楽理論書には、iii - vi - [IV→ii] - [Vまたはvii°] - I なんていう和音進行は書かれていない!」て思ったら、その音楽理論書は、お子様向けのものだと思うよ。私がひもといている Tonal Harmony という本は、アメリカの音大といった、大学レベルで使われる本だそうだから。そして、どうしてクラシックピアノのお稽古では I-IV-V-I しか習わないんだろう?については、たぶん、このコード進行が、西洋音楽のコード進行を最も単純化したコード進行だからなんだろうね。つまり、トニックと、サブドミナントとドミナントのそれぞれ最も強いコードだけにして、子どもたちがわかりやすいように、最も簡単にして教えてあげているんだろうね。だから、大人が知っているべき本当のコード進行は、上記で書いた、I ii iii IV V vi vii° を総動員したコード進行なんだよ。
それから、世界には、ii iii vi vii°を小文字で書く人たちがいるんだよね。どうしてそうしているか、勘のいい人はわかるよね。 ちなみに、クラシック日本語で「ハ長調」は、もともとは「C major」つまり「Cメイジャー」だけど、major の意味は? Dictionary.com には、major = greater in size, extent, or importance ってかいてある。 つまり、majorとは、サイズや程度や重要度が大きい(great)こと だね。 じゃあ「ハ短調」の「C minor」つまり「Cマイナー」の minor は? ケンブリッジ英語辞典によると、 minor = having little importance, influence, or effect,... って書いてある。つまり、minor とは、重要度や影響や効果が小さい(little)ことだ。 クラシック日本語で「長3度」の大元の西洋音楽語は「major 3rd(メイジャー・サード)」。「短3度」の大元は「minor 3rd(マイナー・サード)」だ。つまり、本来なら「大3度」「小3度」って翻訳すべきところだったんじゃないかな?なのに、どうして、明治時代の日本の偉い学者さんたちは「大きい(major)」を「長い」に、「小さい(minor)」を「短い」と、翻訳してしまったのかな? たぶん、ピアノの鍵盤を見てばかりいたから、ピアノばかり、ピアノしか見ていなかったから、ピアノしか楽器と認めていなかったから、そう翻訳してしまったのかな? まさに、「ピアノ以外の小型楽器はすべてマイナーな楽器なのであーる!」って、考えてしまっていたからなのかな。
ここまで読んでくれた人のなかで、
「それが一体どうだっていうんだ?」
とイライラしている人は、クラシックピアノ向きの人だ。
こんなことをクドクド考えなくたって、
こんなことを全く知らなくたって、つまり、
西洋音楽を組み立てている大元の土台を、何にも理解していなくたって、
大作曲家の楽譜を見てそのとおりに弾けば、クラシックピアノ曲は得意げに弾けちゃうもんね。
子どもの頃の私が、そうだったから。
さいごに、私がひもといている Tonal Harmony っていう本。
題名は、Tonal Harmony。
Atonal Harmony ではない。
つまり、
tonal な宇宙に限定された内容ってことだ。
まだ続くと思う。
元の記事: