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003(↓)からの続きです。
私が、「この人はすばらしい先生だ!」と思った人の話を書きます。
その先生(Aさん)は、大学時代に英語の家庭教師をした人で、ピアノの先生ではありません。
でも、Aさんの話を聞いて、私は、
Aさんは、理想の先生だ!
と思いました。
以下が、その話です:
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Aさんが、大学生だった時に、私立の女子中学生の家庭教師のアルバイトの話が来ました。
Aさんは、ひざがすっぽり隠れるプリーツスカートにブラウス、カーディガンを羽織って、足元はハイソックスにデッキシューズという、当時の女子大生にしては地味な服装で、生徒さんの家にあいさつに伺ったそうです。
生徒さんの親御さんがAさんに与えたミッションは、
「学校の英語の試験の成績(60点台)を、もっと上げてほしい」
というものでした。
生徒さんが通う私立中学は、帰国子女の受け入れ校でした。
Aさんは、
「この生徒さんは、自分と同じ境遇だ」
と思ったそうです。Aさんが通った中学も、そうだったからです。
Aさんも中学時代、英語に関しては、スタートラインが完ぺきに違うペラペラな人たちが何人もいる環境のなかで、英語の成績で苦労したそうです。
Aさんは、それでも勉強して、大学では英語を専攻しました。
Aさんは、生徒さんの曇った表情を見て、彼女の気持ちがよくわかりました。
生徒さんの顔には、
「わたしは、英語ができない」
という自信のなさが表れていたそうです。
Aさんは、副教材を携えてきていました。
大学のクラスメートの弟さんが通う、Z中学校で使っている本です。
教科書の予習復習に加えて、
「Z中学校が使っている本を、やってみますか?」
と、生徒さんと親御さんに、その本を見せました。
Z中学校は、偏差値が全国最高レベルの、超難関校です。
その本は、イギリスのオックスフォード大学の出版局が出している、英語だけで書いてある小さな薄い本で、短い話とそれについての質問が数個、というセットが何十話もはいっている本でした。
「まあ!〇〇ちゃん、Z中学の本ですって!」
と、お母さんの顔が輝いたそうです。
生徒さんもなんとなく嬉しそうな顔をしたそうです。
Aさんは、正式に家庭教師を依頼されました。
最初のレッスンで、Aさんは、生徒さんに、自分が中学時代どのように試験勉強をして英語の点数を上げたかを話しました。その方法は:
★学校の試験は、授業でやった範囲からしか出題されない。
★だから、出題範囲の英文の意味をぜんぶ理解して、何度も音読したり、紙に書き写したりして、全部暗記した。
★出題範囲をぜんぶ暗記したら、答えをぜんぶ知っていることになるから、絶対に解けると思った。
★そして、実際に試験の点数が上がった。
というものでした。
中学生ですから、20回も音読して紙に書けば、かなり覚えられます。
これについては、レッスン以外の時間にやってもらうことにしました。
レッスンでは、教科書の復習と予習をしました。
生徒さんが分からない箇所を一緒に復習して、全ての意味を理解するお手伝いをしました。
そして、予習につきあって、
授業内容がすべてわかっている状態で授業を受けられるようにしてあげました。
これに加えて、Z中学の教材を、いっしょに読み進めていきました。
生徒さんが知らない単語や言い回しはいっしょに調べて、文章の意味を言ってもらって、問題をいっしょに解いて、ということをしました。
2か月もすると、生徒さんがニコニコ出迎えてくれるようになりました。
Z中学の本を読み進めるペースが上がってきました。
読み進める生徒さんの目が生き生きしてきました。
学校の試験の点数もぐんぐん上がり、ついに90点を突破して、
親御さんが大喜びしました。
やがて、Z中学の本をぜんぶやり終えてしまったので、同じシリーズの第2巻をはじめました。
そのうちに、シリーズ全巻を終えてしまい、生徒さんがもっと続けたいと言ったので、
同じオックスフォード出版局から出ている別のシリーズを始めたそうです。
Aさんは大学卒業まで家庭教師を続けて、卒業後は有名企業に就職しました。
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この話を聞いて、私は、
Aさんは、大学生でありながら、理想の先生であった、と思いました。
理由は3つあります:
① 「生徒さんが主役」であることを表明した
女子大生であれば、流行のファッションで着飾りたい年頃です。
でも、Aさんは、家庭教師先に伺ったとき、地味な服装でした。
これによって、Aさんは、親御さんから、「真面目そうな人で、娘の家庭教師を任せても安心だ」と好印象を持たれたことでしょう。
カスタマー・オリエンテッドな服装は、世の中からお金を頂く基本です。
それだけではありません。
Aさんは、実は、その地味な身なりによって、生徒さんと親御さんに、
「生徒さん、この英語レッスンの主役は、貴女です。」
「お母さま、レッスンの主役は、お嬢様です。」
という、視覚的なメッセージを送ったのです。
② 同じ境遇の先例として、成功法則を伝えた
Aさんも、「帰国子女の受け入れ校」に通ったので、英語で生徒さんと同じように苦労しました。
だからこそ、生徒さんはAさんを、参考になる先例として見ることができました。(もしAさんが帰国子女だったら、生徒さんはAさんを、自分の参考になるとは思わなかったでしょう)
Aさんは、自分がどのようにテスト勉強をしたかという体験談を、生徒さんに話しました。
それは、Aさん自身が中学時代に、自分で実際に試して結果が出た成功法則でした。
その成功法則は、家庭教師の英語レッスンの時間外で、生徒さん自身が行うという、生徒さん自身の努力を要求するものでした。
生徒さんがそれを試したら、同じ結果が出た!
同じ結果が出たと分かったら、あとは、この成功法則を使うだけです。
そして、生徒さんは、英語に限らず、これからの人生で何かを習得する際に必要な方法が、わかったと思います。
③ 生徒さんの自信につながる最強のメッセージを放った
Aさんは「Z中学の教材をやってみますか?」と、生徒さんと親御さんに、その本を見せました。
実はこのとき、Aさんは、彼らに向けて、最強のポジティブメッセージを放ったのです。
それは、
「生徒さん、貴女は、最高級の本物を使うにふさわしい、選ばれた方なのです。」
「お母さま、お嬢様は、最高級の本物を使うにふさわしい、選ばれた方なのです。」
というメッセージです。
生徒さんが通う学校で、日本のエリートの卵たちが通う超難関校、Z中学の教材を使うのは、彼女だけ。
しかもその教材は、英語の本家イギリスの、屈指の名門オックスフォード大学が出版している本です。 日本語が一文字も入っていない、エリザベス女王が話すイギリス英語だけで書かれた、本場イギリスの本。 本物です。
親御さんが喜ぶのは当然です。
わが子がエリートの卵だと告げられたも同然なのですから。
Z中学の本を進めるほどに、生徒さんの目が輝いていったのも、当然です。
それは、
「私は、最高級の本物で学んでいる」と、生徒さんが自信を強めていったことを示しています。
最高級の本物を知っているという自信があれば、
授業で使う教科書から出題される試験も、もはや恐れることはありません。
成功法則を使って暗記してしまえばいいだけのことですから。
学校では、悠然と、英語の授業を受けていたことでしょう。
生徒さんは、エリートになったのです。
ここで注目すべきは、
①②③のいずれにおいても、Aさんは、
言葉による直接的な指導は行っていません。
彼女は:
① 信頼できそうな外見(服装)
② 自分の体験談を話した
③ 本を提示した
ただ、それだけです。
でも、
Aさんが伝えたメッセージは、どれも強力です。
そうなんです、
「✖✖をやらないとだめですよ」とか「▲▲は効果がありますよ」とか「■■をやっていますか?」
という言葉による上から目線の指導よりも、
視覚情報や実体験といった、
ソリッドな事実を提示するほうが、はるかに強力なのです。
言葉がウソになることは、子どもだって知っています。
「姿勢は大切なんですよ、姿勢を正しく!」
といくら言っても、
「じゃぁ、あんたの、その前に突き出た首はいったい何なの?」
って、子どもでも、ちゃんと視ているんですよ。
説得力ゼロ。
だから、言葉は信用できない。
これに対して、
ビジュアル情報や、成功体験や、物体は、見たまま聞いたままです。
だから、これらが内包するメッセージのほうが、
言葉(ウソ)が入り込むスキがないため、強力なのです。
それを知ってか知らずか、Aさんは、
最強のポジティブメッセージを3つ発した。
そして、
その3つだけで、じゅうぶんでした。
Aさんは、生徒さんに、何も教えませんでした。
Z中学の教材をどんどん読み進めたのは、生徒さん。
試験のために出題範囲の英文を全部理解して暗記したのも、生徒さん。
Aさんは、そのお手伝いをしただけ。
でも、Aさんは、もっと本質的なレベルで、
生徒さんの背中を大きくプッシュした。
生徒さんに、大きな自信と、成功法則を与えたのだ。
何をするにも、いちばん大切なのは、本人の自信。
そして、具体的な成功法則。
この二つを持っていれば、この先の人生、どんなことでも、できる。
ところで、
自信は、教えるものではありません。
自分はどこまでも黒子に徹して、
お客様の心の中に自然に沸き起るようにしていただくものです。
そして、そうなったからといって、
決して種明かしをしたり、自分の手柄にしてはいけません。
そうしようとした瞬間に、すべてがパー!台無しになる。
そういった類(たぐい)のものです。
それを、「教えることができる」と考える人は、
先生になる資格、というか、素質がありません。
それにね、そもそも、
プロは、自分の仕事の手の内を、
決して明かさないものなんですよ。
Aさんは、
「A先生、A先生」と親御さんが呼んでくださる、
「先生」の本当の意味が、お嬢さんである生徒さんの
「お手伝いさん」であることを、
ちゃんとわかっていました。
Aさんは、
生徒さんに、
「教えてあげる」(←実際のところは「エリートである優れた私が、エリートじゃない劣ったお前に、教えてやる」)といった、
先生然とした上から目線で接することはありませんでした。
生徒さんに、言葉でワーワー言って教えることも、ダメ出しすることも、説教することも、しませんでした。
「あなたは、ダメなのよ」という、有形無形のネガティブメッセージを発することも、決してありませんでした。
Aさんは、
徹頭徹尾 、黒子に徹して、
生徒さんがそれと知らないうちに、
生徒さんの心に、小さな「自信の種」をそっと蒔いて、
生徒さんにスポットライトの光を当て続け、
生徒さんが自発的に勉強するプロセスを影ながらお手伝いし、
生徒さんの心の中に自信の大きな木が育ってゆくのを、
静かに見守りつづけた。
そして、生徒さんを、「心からのエリート」に育て上げた。
しかも、決してそれを、
自分の手柄にしなかった。
ビジネス面においては、
クライアントとの間の「家庭教師サービスの提供に関する契約」に関して、
立派な成果を出した(英語試験の成績が大幅アップ)。
その結果として、クライアントから信用を勝ち取り、
それが、継続した雇用(金銭収入)につながった。
私は、Aさんに、理想の先生像を見ます。
プロフェッショナリズムを見ます。
今後、またピアノを習うことがあるとしたら、Aさんのような人に習いたいと思います。
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これに対して、
Aさんの例とは直接比べられないかもしれませんが、
以下は、私がピアノ会に参加したとき、ある人(Bさん)から聞いた話です:
大手企業に勤めるBさんは、小さいころピアノを習っていましたが、
今は、忙しい会社員生活を送っている、ちょっとした合間にピアノを弾くのを、楽しみにしていました。
ある時、Bさんは、ピアノ教師が主催するピアノ会があると知って、参加しました。
ピアノの先生が主催するから、演奏後に何か役に立つアドバイスの一つもくれるのかな、という感じで参加したそうです。
当日、そのピアノ会で、Bさんが演奏し終わったあと、
先生は、「あなたのピアノを弾く姿勢が悪すぎる!」
と、他の参加者の前で、えんえんとBさんに指導を行ったそうです。
これを聞いて私は、戦慄が走りました。
恐ろしいことだ。
Bさんは、若い人たちが言うところの「公開処刑」、「晒し者」にされたんだ。
Bさんいわく:
「私の弾く姿勢があんまり悪いから、先生も、一生懸命に言ってくれたんだと思うんだよね...。」
このように語るBさんは、大人ですね。
すばらしいです。普段の有能な仕事ぶりがわかりますよ。
これに対して、
先生、
この世では、
みんなの前で大人に恥をかかせるのは、アウト!
絶対にしちゃいけないんですよ。
いや、大人だけじゃない。
みんなの前で子どもに恥をかかせるのも、アウト!
人前で、ヒトに恥をかかせてはいけません。
どうしてかって?
じつは、そうすることで、
人前で、いちばんの無能さを、ダメさをひけらかして、いちばん恥をかくのは、
ヒトに恥をかかせた、あなただからです。
その先生は、良かれと思ってBさんにダメ出し指導したんでしょう。
そして、
もしかすると、
「こんなに熱心に指導してあげたのだから、Bさんは私のピアノレッスンの生徒になってくれるかもしれない」
って思った?
思ったとしたら、
「あなた、大丈夫ですか?」
ですよ。
あなたに晒し者にされたBさんが、あなたのレッスンを受けたいと思うわけがないじゃありませんか。
この場合、Bさんに何かアドバイスを、と思ったら、
まずBさんの演奏のすばらしい点を4つ以上挙げてから、
さりげなく1つだけ、
Bさん一人に向けたものではなく、
参加者みんなが共有できるような、
ちょっとした、有益な、アドバイスを。 それも、短めに。
それだけでいいんです。
それが、大人ってもんです。
プロってもんです。
そして、それが、Bさんがあなたに期待したことでした。
ところが、
Bさんを公開処刑してしまったことで、
Bさんばかりか、
それを目の当たりにした他の参加者たちも、
ドン引きしたと思いますよ。
参加者をレッスンの潜在顧客と見て、ピアノ会を主催しているのではありませんか?
だとしたら、
この先生は、潜在顧客を見事に失ってしまいました。
* なぜ、アドバイスを1つするために、素晴らしい点を4つ以上挙げる必要があるかについて、その根拠をご存じない場合は、各自お調べください(10年以上前にベストセラーになった本に書いてあると思います。社会人なら読んだ方が多いと思います)。
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